身延町
吉田康隆さん(32歳)
横浜市出身。岐阜と東京の親方に弟子入りした後、3年余り前に身延町に移住し「吉田鍛冶屋」として独立。仕事場である鍛冶場をはじめ、生活する小屋や炭小屋などすべて自分の手でつくりあげた。「水はけがよく、西に山がそびえていて西日があたらないところも、鍛冶の仕事に適しています」と吉田さん。
鍛冶の仕事に集中したいと、山間の小さな集落に移り住んだ刀工の吉田さん。静かな山里には今日も、鍛冶の音が響き渡ります。
身延町の山間のひっそりとした集落の中にある、一軒の小さな家。鍛冶の音が響き渡るこの古民家が、刀工の吉田康隆さんが構えている「吉田鍛冶屋」です。
吉田さんが身延町で暮らし始めたのは、3年余り前。鍛冶屋として独立を決めたのを機に、「静かで仕事に集中できる場所を」と各地を探し歩き、山梨の身延町に辿りつきました。
暮らし始める1年以上前から通っては、車で寝泊りしながら鍛冶場や小屋を自らの手でつくってきたそうで、そのころから近所のおじいちゃん、おばあちゃんとは顔なじみに。
「作業をしていると、いろんな人がちょくちょくのぞきに来ましたよ。そのうち自然と話をするようになって、暮らし始めるころにはすっかりここの住人になっていました。みんな何かとよくしてくれて、おいしい野菜もいっぱいくれます」。
静かで自然豊かなこの地が好き
日々の生活は、仕事が中心。1本の刀をつくりあげるまでには3週間から1ヶ月の時間を要し、常に自分との真剣勝負です。一度火を入れると途中でやめることができないだけに、日にちも時間も関係なく、食べることさえ忘れてしまうといいます。
「日々の大半をこの鍛冶場で過ごしていますが、それだけ集中して仕事に打ち込むことができるのも、周りをあまり気にする必要のないこの環境だからこそだと思います。友人にもやはり同業者が多いですが、これほどの自然の中で鍛冶屋をしている人はなく、ここを訪れる友人たちはみんなこの雰囲気に驚きますね。刀を注文してくださったお客さまが訪れることもあるんですが、やはり驚かれることが多いです。私はこの静かで自然豊かなこの環境がとても気に入っています」。
ここでいい仕事をしていきたい
ここで暮らすようになってからは、生活そのものも無駄がなくなり、シンプルになったといいます。「ここの暮らしが自分に合っているんでしょうね。東京で展覧会をする時など以外は、あまり出掛けなくなりました。料理は手間はかけませんが、かまどを使っているので、ご飯ももらった野菜を使ったおかずもおいしいですよ。友人が来た時は、近所のおばあちゃんがくれたカボチャを入れたほうとうを作って出しましたが、好評でしたね」。
「とにかく何よりも仕事に打ち込みたくてこの地を選びましたから、ここでいい仕事をしていきたいです。『こういう刀をつくりたい』という目標があるので、そこに向かって日々取り組んでいきたいと思います。これからも今みたいな暮らしができればいいですね」。
ひたすらに仕事に取り組む吉田さん。その姿を、これからも山々に囲まれた静かなこの土地、そして地域の人たちが、いつもあたたかく見守っていくことでしょう。
看板が掲げられた鍛冶屋小屋の玄関
鍛冶場には、立派な梁も見える
生活拠点となっている手作りの小屋も素朴な雰囲気
鉄を打つ機械はかつての親方から譲り受けたもの
吉田さんが初めて作ったという刀