柳澤 和也さん 恵さん 取材/2022.10現在
おもしろいと話題の韮崎で、
念願のお店をオープンするまで
大学の後輩だった恵さんと結婚し、五匹の愛猫と共に東京で暮らしていた柳澤和也さん。『自分の店を持つ』という目標に向かって、東京でも名の知れたクラフトビールの専門店で店長を務めていたときに、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが始まりました。
「飲食店への休業要請や行動制限、外食の自粛など、考えてもみなかった事態が次々と起こりました。先が見えないなかで、店長として対応しなければならないことが多く大変でしたが、逆に、これからのことを真剣に考えるきっかけにもなりました」。今後しばらくはコロナの影響が少なからず続くだろうことや、いずれ子どもが生まれ、育てていくことなど、将来を見据えて冷静に考え、夫婦で話し合うなかで、地方移住という選択肢が現実的になっていったといいます。
そんなとき耳にしたのが、最近、山梨県の韮崎市が盛り上がっているという話でした。「20~30代の若い世代を中心に、地元の人と移住者が一緒になってゼロからまちづくりを進めていると知人から聞き、おもしろそうだと」。感染状況が落ち着くのを待って、揃って韮崎を訪ねてみたといいます。
「実際に来てみると、アメリカヤビルを中心に、カフェや古着屋、ゲストハウスなど個性的なお店が広がっていて、想像していた以上に活気が感じられました。どのお店も、古くからの建物を活かしてかっこよくリノベーションしてあり、まち全体に良い雰囲気が醸成されつつあるとも感じました」。
それからも何度か通い、まちなかを散策したり、いろいろなお店を利用してみたりしたというお二人。「働いている人や遊びに来ている人と話をするなかで、だんだんと移住後の暮らしが具体的にイメージできるようになり、ここで頑張っていけたらという思いが強くなっていきました」。そして最後は、アメリカヤビルの向かい側に、ちょうどいい空き店舗が見つかったことが決め手となり、韮崎への移住を決意。2021年10月に東京のアパートを引き払い、しばらくは知人宅の離れに仮住まいしながら準備を進めて、2022年4月、8種類の樽生クラフトビールと自家製燻製料理を楽しめる“TAP8 ”をオープンしました。
自然を愛で、人とのつながりを感じながら、
心穏やかに幸せを紡ぐ
その後、空き家バンクで見つけた中古住宅を購入し、現在は韮崎市内の一軒家で暮らす柳澤さんご夫妻。和也さんに続き、恵さんもアメリカヤの一室にフラワーアレンジメントのアトリエをオープンして、忙しくも充実した毎日を過ごしています。
「上京してしばらくは、都会だ!東京だ!とワクワクしながら暮らしていたのですが、満員電車で通勤する日々の中でだんだんと窮屈さを感じるようになり、気がつくと、緑豊かな場所で暮らしたいと思うようになっていました。こちらでも日々の慌ただしさは同じなのですが、ふとした瞬間に山のある風景を眺めたり、お休みの日に森の中をドライブしたりするだけで、心が癒され、気持ちにも余裕が生まれるから不思議ですね」と笑顔の恵さん。和也さんも、「東京にいた頃は、どこにいても何をしていても自分のプライベートゾーンのなかに他人がいるという環境に疲れを感じていました。こちらへ来てからは、物理的な距離がありながらも人とのつながりは濃い感じがしていて、その距離感に心地よさを感じています」と、穏やかな表情で話します。
コロナ禍でのスタートとなったお店も、オープン以来好調が続いているとのことで、「ありがたいことに、たくさんの方に来ていただき、めまぐるしい日々が続きました。今は少し落ち着いて、お客さまと会話を楽しむ余裕も出てきています。お隣の北杜市は、日本で初めてホップの契約栽培が始まった地であり、そういうストーリーのある場所でクラフトビールのお店を持てたことも幸運でした。これからもたくさんの人に樽生のクラフトビールを楽しんでもらい、美味しさやおもしろさを広げていけたらと思っています」と、力強く語ってくれました。
空き家バンクで見つけた中古物件を一部リノベーションをしたご自宅。
アメリカヤ3階に恵さんが開いたatelier kurinso。手作りのリースやブーケなどを販売している。
カフェに立ち寄り、移住者仲間でもあるオーナー夫妻と談笑。