熱い思いを抱き、地域おこし協力隊として大月に移住
都内の大学を卒業後、東京都青梅市で、沢登りやラフティングのガイドをしていた宮城県出身の鈴木涼平さん。「その当時僕は、ラフティングは天職だと感じ、一生の仕事にしたいと思っていました。そして、いずれは独立し、首都圏のどこかで自然体験を提供する事業を興したいという夢を、事あるごとに友人や知人に話していたんです。そんななか、ある人が教えてくれたのが、大月市で最初の地域おこし協力隊を募集しているという情報でした」。
地域おこし協力隊は、都市部から地方に移住し、住民の生活支援や地域の活性化などに自治体の委嘱を受けて取り組むという総務省の制度で、2009年から始まりました。隊員に採用されると、最長3年間、生活費や活動費などの支援を受けながら、その地域で活動を続けることができます。
実は、高校時代から自転車競技で活躍し、国体優勝経験もある鈴木さん。山梨県には、大学の自転車部時代によく練習に来ていたそうで、「大月周辺についても土地勘がありました。東京から近く、自然が豊かで、桂川を始めとする水資源も豊富ということで、アウトドアには最適な場所です。さらに、調べてみると地域おこし協力隊はなかなか魅力的な制度のように思われました。大月市の応募要件が観光振興で、やりたいことができそうだったこともあり、早速応募したところ、2015年4月から隊員として活動できることになったんです」。
地域の理解と協力を得て起業。協力隊卒業後も、大月に根を下ろし、山梨で事業展開していくと決意
「もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではありません。というのも、外から入ってきた人間が新しいことを始めようとすれば、従来の考え方や枠組みでは難しいことも出てきてしまうからです。僕の場合も、一番やりたかった『水資源を利用したレジャーの提供』について市の担当者から難色を示されるなど、着任早々大きな壁にぶつかって、本気で辞めようとまで思い詰めました」。思い留まったのは、同じ時期に採用されたもう一人の地域おこし協力隊員のおかげだと鈴木さん。しばらくは悶々とした日々を過ごしていましたが、「やりたいことをやるためには、それができる環境を自分で造らなければいけない。そのためには、地域の方々の理解と協力が不可欠だ。ならば、まずは顔を売ろう!いろいろな人と話をして、鈴木涼平という人間を認めてもらおう!」と一念発起。地域のお祭りや町の運動会、自治会活動などに積極的に参加し、自分の夢を語るうち、応援してくれる人も出てきたといいます。そして、そうした方の助言により、秋には名勝猿橋でラフトボートを用いた遊覧の試験運航をする運びとなり、さらに半年後の2016年4月には「猿橋遊水舎」を立ち上げ、遊覧ボートの運航事業を本格化させることができました。
2018年3月、3年間の委嘱期間を終え、地域おこし協力隊を卒業した鈴木さん。
現在は、「猿橋遊水舎」を発展させた「山梨アウトドアプロジェクト」の代表として、猿橋での遊覧と真木地区でのシャワークライミングやラフティングを展開。一方で、自ら持つ狩猟免許を活かし、地元猟友会と連携しつつ、イノシシやシカを捕獲しペットフードに加工して販売する「ペットフードジビエ」事業にも取り組んでいます。
「3年間の在任期間に痛感したのは、人と人とのつながりの大切さ。これからも、地域の方々とのつながりを大切にしながら、興した事業を軌道に乗せ、発展させていきたい。と同時に、新たに来られる地域おこし協力隊の協力隊にもなりたいと思っています」と、熱い胸の内を語ってくれました。
市内の一軒家。日当たりの良い広い庭があり、アウトドア事業で使うウエットスーツや長靴のメンテナンスもできる。「すぐ近くに住む大家さんには、事業を進めていく上でもいろいろとお世話になっています」。
安藤広重の「甲陽猿橋之図」に描かれ、日本三大奇橋にも数えられる猿橋は山梨が誇る観光名所のひとつ。鈴木さんが提供する猿橋遊覧は、桂川渓谷をゆったりと遊覧し、四季折々の見事な風景を愛でながら下から猿橋を眺めることができると人気が高まっている。