身延町
藍原孝之さん(31歳)、るり子(32歳)ご夫妻
2004年から2008年まで、藍染めグループの「トシュカ」として活動し、藍染めに親しむ。2009年より、手仕事ユニット「yuruyuru」として活動を始める。結婚を機に、東京から山梨県へ移住。現在、身延町の古民家を自分達の手で再生しながら、創作活動を続けている。
[ゆるゆる村]http://yuruyurumura.blog79.fc2.com/
時の流れが止まっているかのような、のどかでどこか懐かしい山間の村で、自分達で再生した古民家での暮らしを愉しむ"草木染め・手仕事ユニットyuruyuru"の藍原孝之さんとるり子さん。
裏の森に造った工房では、4つの大きな寸胴が、ゆらゆらと湯気を上げていました。
山梨県南部に位置する身延町。藍原孝之さん・るり子さんご夫妻は、日蓮宗の総本山 身延山久遠寺で知られる、この山間の小さな町に、東京から移住してきました。
「私は東京で生まれ育ったんですが、気がつくと、田舎に住みたい、古民家で暮らしたいと願うようになっていました。もちろん、草木染の原料になる草木が生えている自然の近くで暮らしたいという思いも強かったんですが、東京の暮らしは、お金が無ければ始まらないわけで、そういうお金至上主義みたいなものへのアンチテーゼもあったんだと思います」と奥様。同じ価値観を持つご主人と出会い、「お金を稼ぐためだけに生きるのは空しいね。いつかお金のことを気にせず、自分たちらしく暮らせる場所へ行きたいね」と意気投合してからは、東京に近い自治体の空き家バンクを継続的に見るようになったと言います。「そろそろ結婚しようかと話していたときに、身延町の空き家バンクにこちらの古民家の情報を見つけて、これだ!って。それで、結婚を機にこちらへ移住してきました」。
切り拓いていく楽しみを満喫
お二人が見つけたのは、築約150年は経っているだろうと思われる養蚕農家。空き家になって、すでに20年近くが経過していました。「この家は大きくて、2階も、3階もある。もちろん、かなり汚れてはいたけれど、僕らにとっては、そんなの全然問題じゃなかった。それよりも、まずは大きさに圧倒されて、そのうち、どうやって直そうか、どんなふうに使おうかって、胸がワクワクしてきて…。それでいて、家賃は年間5万円。すごく安いですよね。まさに僕らにピッタリの家だと思いました」。
こちらへ越して約半年。住民票を移し、自治会にも入って、地域の一員としての暮らしが始まりました。工房は、裏の森の中。草を刈り、雨露をしのぐ屋根と、かまどを4つ造りました。「私たちはここで、大きな寸胴に薪でお湯を沸かし、周囲の山や野原で見つけた草木を使って、染物をしています。草木染めはとてもおもしろくて、同じ材料でも、草木を摘む時期とか、煮出してから何日目に染めるかとか、煮出す温度とか、それこそいろんな要素が複雑に絡まり合って、色が生まれるんですね。だから、まったく同じ色を出し続けるというのはとても難しい。反面、毎回、どんな色が出るだろうって楽しみは大きいんです。今、寸胴が4つあるので、3つは結果が予測できる材料を使い、残りの一つは、その時々に出会った草木で、実験的な染め物をしています。失敗もありますが発見も多く、すごく興味深いですよ」と奥様。こちらへ来てから、「やることがいっぱいあって、毎日が楽しくて仕方がない」といいます。一方、「周囲の方々には、本当によくしてもらっています。組のことを教えてくれたり、農作物をおすそ分けしてくれたり…でも、必要以上に立ち入ってくるようなことはなくて、若いモンのやることを温かく見守ってくれているって感じ。つかず離れずの距離感が、すごくここちいいですね」とはご主人の弁。「お金ではなく知恵を使って、自分達らしく暮らして行きたいよね」。そう言って顔を見合わせたお二人。自然体の笑顔がステキでした。
住まいは、築約150年の養蚕農家
前庭で野菜作りにも挑戦中
裏の林に作った工房
自宅で栽培したシソ
薪を焚いてお湯を沸かす
大きな寸胴(鍋)に染料となる植物を入れる
ある程度色が出たら染料の植物を取り出す
シャツや手ぬぐいなど、染めたい部分だけ染料に浸す
何色もの色を使って、イメージに沿って仕上げていく