どこか田舎で、パンとフランス料理のお店を開きたい

　東京のパン屋さんとフランス料理店で修業した愛知県出身の川瀬則雄さんと、北杜市高根町清里で育ち、東京のお菓子屋さんとパン屋さんで修業した奥様の真美さん。以前は、都内の閑静な住宅街で、パンとフランス料理のお店を営んでいました。「オーナーから預かり、自由にやらせてもらっていたのですが、僕が人混みが苦手だったことから、いずれはどこか田舎で自分たちのお店を持てたらと考えていました」と則雄さん。真美さんも、「北陸や四国、東北にもお付き合いのある生産者さんがいて、訪ねる機会もあったので、『あんな場所でお店ができたらいいね』なんて話をよく2人でしていました」と振り返ります。 転機になったのは、長男穏和くんの誕生。真美さんがそれまでと同じようには働けなくなり、『これは大変だな』と感じていたお二人に、「だったら、清里でやればいいじゃないか」と真美さんのお父様から提案がありました。 「両親の助けがあれば、子育てしながらお店を切り盛りしていくことができて、案外良いかもしれない」と考えた真美さんと、「僕にとって、清里は学生時代によく遊びに来ていた大好きな場所。当時と雰囲気が変わっていて最初は驚きましたが、逆に新たな良さも感じていましたので、ありがたい話だと思いました」という則雄さん。話はとんとん拍子に進み、２０１５年秋に清里へ移住。お父様が、老後の住まいにしようと20年以上前から少しずつセルフビルドしてきた建設中の建物を借り受け、家族総出で内装を施し、パン窯や厨房設備も整えて、２０１６年4月、パン工房レストランmegane（めがね）をオープンしました。

周囲には豊かな自然、夜空には煌めく星…
便利さはないけれど、豊かな暮らしが楽しめる場所

　開店から約2年。暗いうちからパンを焼き、朝7時半には焼きたてのパンを並べて開店。併設のレストランでは、モーニングとランチを提供しています。「東京で少しの自信を得て始めました。ただ、当初は地元の方に愛されるお店にしたいと考えていたのですが、実際に住んでみると想像以上のリゾート地だったので、軌道修正も必要でした」と、則雄さん。 季節によって売り上げが上下したり、冬季は暖房費がかかったりと、土地柄の違いに驚いたり戸惑ったりすることもあったそうですが、最近は、お客様や同業者など新しい人間関係も広がり、「この辺りは移住者が多く、僕のような外から入ってくる人間を受け入れる風土があるように感じます。それに、個性的な人が多く、お付き合いしていて楽しいですね」と、暮らしを楽しむ余裕も出てきた様子です。 一方、「待機児童の心配は全然なくて、穏和も、こちらへ来てすぐに保育園に入園できました」と晴れやかな笑顔で話すのは真美さん。昨春、次男の陽くんが生まれましたが、ご両親の助けも借りながら、子育てと仕事を両立しています。 「ここは自然がいっぱいあって、空気も水もきれいだし、夜になると真っ暗になって星が輝いて見えるのもいい。便利さはないけれど、すごくいいなと僕は思っているんです」と穏やかな表情で語る則雄さん。子ども達のはしゃぐ声と、芳ばしいパンの香り。豊かな時間が流れていました。

自然に溶け込むように立つ店舗兼自宅は、真美さんのお父様が一からセルフビルドしてきた建物。真美さんも小学生の頃に手伝った記憶があるという。則雄さんも壁を塗ったり、テーブルを作ったりして開店準備をしたそうで、「愛着があるし、ここでお店をできて幸せだと思っています」。