週末居住派
渡邉丈夫さん(1948年生まれ) 清美さん(1955年生まれ)
Watanabe’s Gallery
若いころから写真撮影が趣味だったという丈夫さん。テラスには望遠レンズのついたカメラをセッティングし、「自然のなかの動物たちを撮影することが楽しい」と言う。森にいるフクロウも撮影。「美人ですね(笑)」。手製の巣箱からちょうど顔を出したシジュウカラや色鮮やかな蝶をとらえたのも、ゆったりとした時間のなかで、動物たちを穏やかな気持ちで見つめることができる環境だからだろう。
いずれ山梨の森のなかを仕事場にするという夢も
八ヶ岳の森に囲まれた渡邉さんのお宅を訪ねると、テラスでゆったりと語らうおふたりの姿がありました。穏やかな表情とともに、なごやかな会話が風に乗って聞こえてきます。
首都圏に事務所をもち、ウイークデーは仕事に追われる丈夫さん。奥さまの清美さんも経理を預かり、朝、一緒に出勤して、遅いときは夜9時、10時まで勤務することもあります。2人のお子さんは独立したとはいえ、ご多忙ぶりが想像できます。「一般にはリタイアする年齢ですが、私たちはまだ、そういうわけにいかないですね。張り詰めた日々をすごしているので、週末ぐらいは都会から抜け出す場所が欲しかったのです」と丈夫さん。
隠れ家を建てるなら八ヶ岳、と以前から決めていました。若いころから山が好きな丈夫さんにとって、八ヶ岳はいちばん身近な自然。清美さんも何度か訪れたこの地に愛着を感じていました。静かな森のなかで鳥のさえずりが聞こえる──登ろうと思えばすぐに八ヶ岳に登れるこの場所が、理想でした。そして6年前に、この住まいが完成。
忙しい仕事を終え、金曜日の深夜に車を走らせてここにやって来る渡邉さんご夫妻。中央自動車道の長坂インターチェンジを下りて、車の窓を開けると、「空気が違うのを感じます。汚れがなく澄んでいて、フィトンチッド、森林の香りがするんですね。この香りを胸に吸い込むと、都会での緊張感をすっと忘れてしまいます」と奥さまの清美さん。
東京に戻るまでの間、丈夫さんは山歩きや薪割りなど、「都会ではなかなかできない、体を動かす作業」を楽しみ、心と体のバランスをとります。
清美さんは、丈夫さんと一緒に山を歩いたり、ここで知り合った主婦仲間の友人と集まって話したり。近隣には、同様に“週末の山梨移住”を楽しむ方々が多く、すぐに仲よくなり、行き来するようになったといいます。「それぞれに食べ物を持ち寄って、ランチやお酒を楽しみます。家の中には上がり込まず、テラスでワイワイと楽しむんです。自然のなかで食べると何を食べてもおいしく、それが山での暮らしのいいところですね」
こうして緑に囲まれてすごすうち、森に対する気づきもたくさんありました。
「家を建てて木を切ると、何年もかけて育った木が切り倒される。残った木も、日の当たり方が変わって、本来なら出ない枝が出てくる。家を建てることで、森は姿を変えていきます」と丈夫さん。
森のなかに住む者として、森林の知識をふやし、森林のことを次の世代に伝えよう──そんな思いで、“森林インストラクター”の資格も取りました。庭の木もできるだけ自然に育つよう、心をくばりながら手入れをしています。
週末の山梨暮らしは今や、生活の一部です。仕事が少し残っている程度なら、ここに来ることをあきらめず、「パソコンを持ち込んで、仕事を片づけることもある」という丈夫さん。
「私の仕事は、パソコンとプリンタさえあれば、どこででもできるのです。そのうち、この山小屋で仕事ができるようになれば、なんて考えているんですよ」
都会の暮らしと山の暮らし。そのバランスも、年々変わっていくのでしょう。
豊かな自然を味わい、そして守るために森林インストラクターの資格を取得しました。
八ヶ岳に通うたびに、森林について深く考えるようになったという渡邉さんご夫妻。もっと森林のことを学び、伝えようと、森林の案内や野外活動の指導を行う森林インストラクターの資格試験を受けました。丈夫さんも清美さんも、森林の地質や森の効用、そして植物の名前まで、しっかりと勉強。「資格を取ることよりも、勉強をすることに意義がありますね」。豊富な知識をもとに、森を見守りつづけます。
都会の家とは違う「山小屋」で暮らしのゆとりを楽しんでいます。
この住まいを、丈夫さんは愛情をこめて「山小屋」と呼びます。ただくつろぐだけの別荘ではなく、山で活動するための拠点だと考えているのです。だから、あえてこぢんまりとした平屋建てにして、「小屋」であることも意識しているそう。木材を生かしたフィンランドの建築デザインが気に入り、設計にも加わりました。広いテラスでお茶を飲むひとときが、癒やしの時間。
豊富な知識をもとに、森を見守りつづけます。
森林インストラクター資格試験のテキスト。森に囲まれながら勉強をすると、テキストの内容もよく頭に入る。
山に入るときの丈夫さんの必携品。十徳ナイフ、ルーペ、そして熊に出会わないように鳴らす熊笛。
住まいの暖房は薪ストーブ。薪割りをして、湿気を防ぎながら充分な量を保管しておく。
薪割りも手慣れたもの。丸太が小気味よく2つに。チェーンソーで大木を切ることも。
山歩き用の帽子が仲よく並ぶ。帽子掛けは丈夫さんの手作り。「ここに来て、木工の楽しさを知りました」。
水色のフェンスと白い窓枠が印象的な住まい。周囲の森と調和して。
広いテラスでお茶を飲むひとときが、癒やしの時間。