9年間の保育士生活を経て
『暮らし旅』をスタート

　横浜の専門学校で福祉やスポーツ、レクリエーションなどを多角的に学び、保育士の免許を取得した小林あゆみさん。卒業後は横浜の保育園に9年間勤務しました。「子ども達と過ごす日々は楽しくて、保育士は天職だと思っていました。でも、9年目を終える頃、そろそろ別の世界も見てみたいと思うようになったんです」。 園からは引き留められたものの、初めて0歳児から見て来た子ども達が卒園するタイミングで自らも退職。その後は、働きながら一定期間滞在する『暮らし旅』をしながら、日本各地を転々としていたと言います。 「日本にはいろんな場所があって、いろんな暮らしがある。魅力溢れる方がたくさんいる。島へ行って海と共に生きる暮らしをしたり、山小屋に身を置いて山の暮らしを体感したりしたのですが、地に足をつけて暮らす魅力に触れ、自分もそんな居場所を持ちたい。そして、もっといろいろなことに挑戦したいと思うようにもなっていきました」。

　身延町を訪れるきっかけは、三宅島で立ち上げと運営に関わったゲストハウスのお客さんから、「身延町にも遊びにおいでよ」と声をかけられたこと。 実は、高校まで甲府市で育った小林さんですが、身延町のある峡南地区には縁がなかったそうで、「私にとっては、三宅島も身延町も知らない場所。新鮮な感覚でした」。

旅の途中で訪れた身延町で
地域おこし協力隊員に

　2017年12月に、初めて身延町を訪れた小林さん。最初の3か月間は、宅急便の配送センターと下部ホテル内にある中華レストランの厨房で働いたといいます。「どちらも短期アルバイトでしたが、地元の方にとてもよくしていただきました。特に下部ホテルでは、皿洗いとしての採用だったのに、料理長からラーメンと餃子を任されるまでに育ててもらい、厳しかったけど楽しかったです。各所での出会いを通して、契約満了の頃には、もう少しこの町にいたらおもしろいかも…と思うようになっていました。」

　地域おこし協力隊の存在は以前から知っていたものの、暮らし旅をしていた小林さんは縁がないと思っていたそう。「それが、その時はストンと腑に落ちて、やってみようと思えました。前任者が卒業して隊員を募集するタイミングだったこともあり、自ら応募。役場の方が親身になって話を聞いてくださり、地域おこし協力隊として採用されることに。新たな冒険のスタートでした」。

あけぼの大豆を通して
農業の奥深さを実感。

　小林さんが選んだミッションは、身延町の特産品であるあけぼの大豆の振興。「正直、最初は何をしたらいいのかわかりませんでしたが、畑に出てみたい気持ちが強かったので、まずは畑仕事を通してあけぼの大豆を学ばせてもらおうと考えました」。畑仕事は想像以上に楽しく、性に合っていたという小林さん。次第に農業と教育のリンクを模索するようになり、協力隊2年目には、あけぼの大豆を使った授業を、身延町内の小学校に提案。見事採用され、年数回ほど総合学習の時間を担当するようにもなりました。また、町内のこども園では"農を通して生きる力を育む"『農育』を担当したり、空き家バンクで見つけた古民家を借りて副業として民泊を営んだり、地域のお母さんたちと定期的にイベントを開催したり、畑を借りて自分でもあけぼの大豆の栽培に取り組んだりと、精力的に活動の幅を広げてもいきました。「身延町には、やりたいことに挑戦できる環境があり、応援してくれる人がいる。とても恵まれていました」と話します。

　2021年3月、満期で地域おこし協力隊を卒業。現在は、身延町が運営するあけぼの大豆拠点施設に農作業員として勤務し、あけぼの大豆の種子圃場の栽培と管理を担うかたわら、小学校での授業やこども園での農育など、地域おこし協力隊員として始めた事業も継続。加えて、5反の畑であけぼの大豆を自ら栽培するなど、相変わらず多角的な活動を精力的に展開しています。「農業の楽しさも辛さも経験してきて、農業には人を繋ぎ、育む力がある、と実感。『農』と言う一つのツールを通して、これからもたくさんの人と関わりを持っていきたい」と力強く語る小林さん。日焼けした笑顔が、きらきらと輝いていました。