魅力的な人、食、店と出会い、
甲府が大好きに

　武井えみりさんと甲府との縁がつながったのは、4年程前のこと。「2019年の春に、甲府の老舗の味噌屋『五味醤油』で開催された、発酵デザイナー 小倉ヒラクさんらによるトークイベントに参加したのが始まりでした。新宿から特急あずさで1時間半。電車は30分おきに出ているので、ちょっと遠出するくらいの感覚で気軽に来ました」。イベント終了後には登壇者と参加者で⼀緒に飲みに行く流れになり、そこから交流が始まったのが、五味醤油の6代目五味仁さん。妹の洋⼦さんと﹁発酵兄妹﹂というユニットを組み、ラジオ番組のパーソナリティも務めるなど、地元ではもちろん県外でも知られた存在です。「枠にとらわれず、柔軟な発想で発酵⽂化を広める活動をしていて、周囲の方々も含めて面白い生き方・働き方をしている方ばかりでした。会話は楽しいし、料理は美味しいし、お店も地元の⼈が知る隠れた名店という感じのところで、印象的な⼀⽇でした」。

　これをきっかけに甲府関連のSNSを頻繁にチェックするようになり、面白そうなイベントがあったり、気になるスポットを見つけたり、新メニューが掲載されたりすると、甲府を訪ねるようになった武井さん。そのたびに知り合いが増え、その人たちから地元の素敵な⼈やお店の話を聞き、会ってみたい人や行ってみたいお店がどんどん増えていきました。甲府へ来る頻度も徐々に増え、毎週通った月もあったといいます。「人とのつながりや食の豊かさに触れ、甲府が大好きになりました。でも、当時は毎日出社が当たり前だったので、住むという発想はありませんでした」。

　ところが2020年の春先、新型コロナウイルス感染症のまん延により事態は一変します。「在宅勤務が続き、⼤好きな甲府にも行けなくなって悶々とする日々。先の見えない窮屈さのなかで、家で仕事をするなら東京でも甲府でも変わらずできるんじゃないかと思うようになっていきました」。その一方で、コロナ終息後の出社頻度などの不確定要素や、地域に溶け込めなかったらどうしようという不安もあり、完全移住には踏み切れなかったと武井さん。住んでいたマンションの契約期限が迫るなか、悩んだ末に選んだのは、東京にも甲府にも拠点を持つという選択。家賃の合計が、当時住んでいたマンションの家賃と同程度に収まる物件を探し、2021年2月から二拠点居住を始めました。

甲府と東京の二拠点居住で、
仕事もプライベートも充実

　それからは甲府に軸足を置き、自宅やコワーキングスペースでのリモートワークを中心に、週に1～2回は東京のオフィスに出社するという生活を続けてきた武井さん。今の仕事に魅力も価値も感じていることや、この仕事を通して山梨に貢献したいと思っていることなどを社長に訴えた結果、2022年10月に⼭梨オフィスを開設することになり、武井さんは山梨オフィスのマネージャーとして活動することになりました。

　甲府に拠点を持ったことで、プライベートにも変化が生まれました。「イベントやワークショップに、スタッフやボランティアとして準備段階から関わらせてもらうようになりました」。当事者となったことでいろいろな人との横のつながりがさらに広がり、思い描いていた以上に素敵な出会いもたくさんあって、以前にも増して楽しいと声を弾ませます。

　「甲府で暮らしていると、道を歩いていても、お店にいても、知り合いによく会います。その場で他愛もない話をしたり、お店で会ったときはそのまま⼀緒になって飲むことも。その距離感、関係性がすごく好き。いつでもホームにいる感じがして、安⼼感があります。東京に⽐べれば⼩さなまちなので、⼀⼈とつながると数珠つなぎにどんどんつながりの輪が広がっていくんです。⾃分はこれまでつなげてもらう側でしたが、今後はつなげる側にもなっていけたら」と武井さん。自分が好きな（偏愛している）甲府のお店を紹介するマップを友人と作るなど、甲府の魅⼒を発信することも始めたそうで、「これからも、ワクワクする方に気持ちの赴くまま暮らしていきたい」と話す笑顔はイキイキと輝いていました。