大学卒業後、会社勤めをしていた市川哲平さん。激務が続き、人間関係でも躓きがあったことから眠れなくなり、心身のストレスが限界に達して、体調を崩してしまったといいます。
「僕は東京農大出身で、もともと農業に興味がありました。姉が勝沼の果樹農家に嫁いでいるので休職期間中に遊びに行ったところ、畑にいるだけで気分が良くて。それで、やっぱり農業がしたいと、妻に相談したんです」。
当時美由紀さんは、哲平さんの辛そうな様子に心を痛めながらも見守ることしかできずにいたそうで、「収入が安定しない、子供も小さいと、不安は大きかったけれど、主人のためにも、家族のためにも、環境を変える方が良いかもしれないと決心しました」。
こうして始まった、就農への挑戦。やるなら野菜を作りたいという思いや、生活の便利さなどを考慮し、移住先を甲府に定めて移住セミナーへ。そこで、こうふコンシェルジュの成澤さんから「考えているだけじゃ始まらない。一度やってみなくちゃ」と紹介されたのが、甲府市が開催している1泊2日の「就農体験ホームステイ」でした。その場で申し込み、家族3人で参加。初めて訪れた中道地区でナスの収穫を体験し、やっぱり楽しいと実感したことで、就農への思いがさらに膨らんだといいます。そこで、その後も何度かホームステイ先だったお宅に通い、 農業のお手伝いをしながら近隣の農家にも紹介してもらって、関係性を築いていった市川さんご夫妻。2017年4月に移住し、3年目を迎えています。
約20種類の野菜を栽培し、
直販やマルシェ出店にも挑戦
農業経験が無かったので、まずは山梨県立農業大学校の職業訓練社会人コースに入学しました。
学校での授業と農業法人での研修というプログラムになっていて、9か月間、理論と実践両面からじっくりと農業を学べるコースです。
僕は、中道地区の8軒の農家が共同運営している農業法人「アグリ・なかみち」で研修をさせてもらい、卒業後の2017年1月に就農しました。「アグリ・なかみち」の皆さんには、農地や農機具を貸していただいたり、農耕技術を教えていただいたりと、今も、言葉では言い尽くせないほどお世話になっています。
現在は5反の農地を借りて、特産品であるナスとトウモロコシを中心に、レタス、キュウリ、トマト、小麦、ネギ、ハーブなど20種類ほど栽培し、JAに出荷する傍ら、地元のスーパーで直販したり、新宿の「ルミネアグリマルシェ」に出店したりしています。将来的には直販の比率を上げていきたい、新規就農者の力になりたいという夢があるので、そこへ向かって挑戦を続けていきたいと思っています。
地域の一員としての活動も、
家族の時間も充実
地域の方の紹介でお借りできた大きな一軒家で、家族3人で暮らしています。十分な広さの倉庫と駐車場もあり、農業をやるには理想的ですし、子供が走り回っても大丈夫です。
季節によって違いがありますが、繁忙期には早朝3時頃から作物を収穫し、倉庫に入れてから朝食。その後2人で箱詰めをし、12時には出荷を済ませます。休日が取れなかったり、長時間労働になったりすることもありますが、やりがいを感じながら充実した毎日を過ごしています。
また、中道は待機児童問題とは無縁で、息子はすぐに保育園に入ることができました。仕事柄家族揃っての外出は難しいのですが、夕方以降は家にいられるので一緒に遊べますし、休日には畑に連れて行って農作業を一緒にやったり、虫を捕まえたりと、日常の中で家族の時間が取れるのが嬉しいですね。
お祭りなど地域の活動には家族で参加し、僕は消防団にも入団しました。息子も地域の皆さんにかわいがっていただき、伸び伸びと積極的に育っています。
野沢菜の収穫に勤しむお二人。
新宿ルミネのマルシェに出店。
収穫した野菜を地元スーパーで直販。
農作業の合間に近くの公園へ行ったり、地域の餅つき
や、お祭りに参加したり
と家族の時間も楽しんでいる。